2017年のノーベル物理学賞に、「重力波」を世界で初めて直接的に捉えることに大きな貢献をしたアメリカの研究者3名が選ばれました。
重力波は、アインシュタインの一般相対性理論で予言された時空のゆがみの変動が伝番する現象です。
その予言されてから約100年経過した2016年に重力波を直接的に捉えることに成功したのです。
なぜこの重力波の直接観測成功が輝かしい発見なのかというと、理論がうまく説明できたとしても、実際に観測できなければその理論が正しいとは言えないからです。
例えば、一般相対性理論と量子力学が統一できていないため、この二つの理論をうまく説明するために導入された超弦理論(超ひも理論)が提唱されています。
超弦理論は理論的な矛盾はないものの、現実の世界でこの理論が実際に起こっているという検証ができていません。
そのため、現実の世界でこの理論が成り立っているかどうか分からないのです。
理論としては正しくても、その理論自体が使われてなかったら意味がありませんよね?
例えば17世紀以後、光が伝番するのは、エーテルと呼ばれる媒体が空間に満たされているからだと考えた理論がありました。
光は波の性質も持ちます。
海の波は水が上下に動くのが伝播します。
波の性質があるのですから、光も何らかの媒体を伝播したと考えるのもうなずけます。
しかし、19世紀のマイケルソン・モーレーの実験でエーテルの存在が否定されました。
空間はエーテルで満たされていないことがわかったのです。
いくら理論が完璧でも現実の世界では成立していなかったらただの机上の空論になってしまいます。
そこで、一般相対性理論が発表されてからさまざまな検証がなされました。
一般相対性理論で予言されていた
- 水星の近日点の移動
- 重力レンズ効果
- ブラックホール
- 膨張宇宙
- 重力による赤方偏移
- 時間の遅れ
- 重力波
という内容のうち、重力波を除く6つは、実際に観測で確認することができました。
ブラックホールも当初は数学上の産物だと言うことで無視されていましたが、例えば銀河系の中心にあるのはブラックホール候補であると、現実に存在しうることが間接的な観測から分かっています。※1
※1 観測からわかる事実から説明できるのはブラックホールしかないということは言えるのですが、そのブラックホールを直接観測できていないところで、書籍などにはブラックホール候補と書かれています。
そして、最後の重力波の検出が残されていたのです。
実は重力波が放出されているであろう現象は、1974年に発見されました。
連星パルサー PSR B1913+16という中性子星の連星の公転周期が徐々に小さくなってきているのが観測されています。
そして、この減衰の量と一般相対性理論が予測する重力波によるエネルギー損失との量が一致したのです。
間接的に重力波は存在することはわかったのですが、理論が正しいことを証明するためには、直接観測できなければなりません。
こうして、重力波の直接検出が待たれたのです。
2016年に重力波が検出されたというニュースが世界中に飛び回ったのは、一般相対性理論が正しいと言うことを検証できたということでもあったのです。
こうして、重力波の存在が確認できてめでたしめでたしだったのですが、最初に発見された内容がまた驚くべき事だったのです。
約13億年前に太陽の29倍の質量と36倍の質量を持つブラックホール同士の合体して、太陽の62倍の質量のブラックホールができ、太陽3個分の質量が重力波として放出されたものだったからです。
この発見は、ブラックホール同士が合体して成長するということを初めて観測したということでもあります。
恒星の一生を終えてできたブラックホールはそこで成長が止まるのではなく、ブラックホール同士の合体でさらに大きなブラックホールへと「成長」することが実証できたのです。
ブラックホールには現在3つのタイプが存在します。
- 恒星質量ブラックホール(太陽の10倍程度の質量を持つ。星が一生を終えてできたもの)
- 中質量ブラックホール(太陽の数百倍から1,000倍程度の質量をもつ)
- 大質量ブラックホール(主に銀河中心に存在する太陽の10万倍以上の質量をもつ)
太陽の超新星爆発を起こして太陽の10倍程度の質量を持つブラックホールができるであろうと言うことは理論から導き出されていました。
しかし、銀河の中心などにある中質量ブラックホールや大質量ブラックホールがどのようにしてできたかは、諸説ありますがよく分かっていません。
重力波による観測の数が増えるにつれ、この問題が解決できるかもしれません。
なお、最初に重力波が観測されたブラックホールについては、超新星爆発によってできたブラックホールよりも重い星でした。
これらがどうやってできたかはまだ詳しく解明されていませんが、太陽の20倍程度のブラックホールがブラックホール同士の合体で誕生したことは、2015年12月25日の2回目の重力波検出で観測できています。
(太陽の14.2倍のブラックホールと7.5倍のブラックホール同士が合体して、20.8倍のブラックホールが誕生しました)。
今後、この程度のブラックホール同士の合体が何例も観測されると、太陽の30倍程度のブラックホールがどのように誕生したかが明らかになるでしょう。
今回は重力波の観測の成功について話をしてきました。
重力波はようやく観測ができるようになったばかりで、これから観測による研究が進むものと思われます。
重力波に関する講義を行っているとアストロ部で確認できた大学は東京大学物理学科、天文学科のみでした(電磁気学III 安東正樹准教授の講義のおまけ項目、重力波物理学)。
また、2017年11月現在で研究室に記載がある大学、2015年以後に重力波の卒業研究(学部生)を行っていることがアストロ部で確認できた大学は以下の通りです。
ただし、卒業研究に関しては毎年同じテーマで研究するわけではないので、今後も継続的に研究が行われるかどうかは各研究室に問い合わせる必要があります。
情報の正確性を保つために、明示的に研究室のウェブサイトや担当先生の個人ウェブサイトで確認できたもののみ掲載しています。
- 新潟大学(研究室に明示)
- 大阪市立大学(卒業研究)
- 東邦大学(卒業研究)
- 神奈川大学(卒業研究)
ただし、重力波は一般相対性理論の検証いう側面だけでなく、重力波の検出例がブラックホール同士や中性子星同士の合体現象で観測されています。
重力波が検出された例をみると、ブラックホール同士の合体や中性子星同士の合体があります。
ようやく重力波で観測できるようになったばかりです。
今後、一般相対性理論を研究している研究室だけでなく、ブラックホールや中性子星(パルサー)、そして銀河を研究している研究室でも重力波に関する研究が出てくることでしょう。
重力波の研究情報について、情報を入手し次第アップさせていただきます。