高校では、理科は四つに別れます。
物理・化学・生物・地学。
宇宙・天文に直接関係ある科目は地学です。
しかし、地学を選択できる理系コースはごくわずか。
多くは物理・化学・生物の中から教科を選んで履修することになります。
宇宙・天文を大学で学ぶには、どれも直接関係なさそうな科目ばかりです。
でも、宇宙・天文を学ぶために高校理科で学習してほしい科目があるのです。
ここでは、高校理科で選択するときに選ぶべき科目について、お話しします。
高校理科の選択科目はどれがいいの?
高校理科は4つの科目があります。
- 物理基礎、物理
- 化学基礎、化学
- 生物基礎、生物
- 地学基礎、地学
高校ではこのうち2科目か3科目を選択して学ぶことになるかと思います。
現実問題、理系の高校の問題点として地学を選択できない高校が非常に多いことです。
高校地学の天文分野は宇宙を学びたい君にとって最も魅力的な学問だと思います。
なぜならば地学にはHR図など天文関係の単元が学習できるからです。
その地学が選択できないのは残念ですよね。
そのため、仕方なく物理と化学を選択しているかもしれません。
地学を選択できる学校の場合、地学を選択肢にいれてもいいかもしれません。
ただ地学は、受験で使える大学が少ないのと、2次試験対策用の問題集がないという弱点があります(過去問や大学入学共通テスト用問題集は除く)。
これを理由に物理、科学を勧める先生もいるかもしれません。
受験に不利であるという点から地学を選択しないという考えもありですが、むしろ実際に天文学(宇宙)を学ぶ際にどういう知識が要求されているかについて調べたほうが、実際に天文学(宇宙)を学習する際に大きな助けになると思います。
大学で天文学(宇宙)を学習する上で必要な教科は何ですか?
その答えを知るためには、天文学(宇宙)を学習できる大学の学習についての要望を見ることです。
大きなヒントを東京大学の天文学専攻・天文学科のサイトで見つけました。
東京大学は入学後すぐに学部に配属されるわけではなく、前期課程の2年間を教養学部として学修します。
その後、後期課程で学部・学科に分かれて専門教育科目を学ぶスタイルです。
以下は、東京大学理学部天文学科が教養学部の生徒へ向けて書かれた、理学部への進学案内「学習への要望」の最初の2文です。
天文学を専攻するにはまず宇宙に対する強い興味を培って欲しい。
天文学を学び研究するには数学および物理学をしっかりマスターしておく必要がある。
(東京大学天文学専攻・理学部天文学科 理学部進学案内 前期課程での学習「学習への要望」より引用 2017/05/25 update版)
「宇宙に対する強い興味を培ってほしい」という部分は、大学で宇宙の勉強をしたいと思っている君は既に十分持っていると思います。
その次の文言に注目です。はっきりと「数学」と「物理学」を
マスターしておく必要がある
と書かれています。
つまり、宇宙を勉強するために必要な科目は「数学」と「物理」は最低限やっておく必要があるということです。
さらに東北大学天文学教室の大学院入試概要でも、
物理学全般に対するしっかりした基礎学力を期待している。
と書かれています。
すなわち、天文学固有の勉強には物理の基礎学力が不可欠であるということがわかります。
実際、大学院の入試問題の出題は物理学の基礎学力を試すものになっていて、天文学固有の問題は出てこないのです。
また、東京大学の天文学専攻の大学院入試試験(平成30年度修士課程入試問題)でも、数学2問、物理学2問、天文学2問の中から4問を選択して解答いたしますが、このうち数学と物理学をそれぞれ少なくとも1問を含む4問を選んで解答することになっています。
やはり、天文学を本格的に学ぶには物理は必要不可欠なものであるということが、大学院の入試問題の趣旨からもわかります。
どうして高校のうちに物理を選択するの?
もちろん、大学に入ってから1から積み上げるという選択もあります。
でも、特に大学初年度は履修しなければならない科目が多く、さらに慣れない大学生活への対応と負担が多いのも事実です。
このような状態で1から積み上げるのはかなり大変です。
「大学では物理を高校ではやらなかった微分・積分を用いて学習するのだから、高校物理は意味がない。」
そう思うかもしれません。
確かに大学の物理は、高校物理では教えることのできなかった微分・積分を用いて学習します。
しかし、大切なのは公式を覚えるということではありません。
物理学はある現象があったときに
「そこで何が起こっているか?」
という疑問を持って、観察・実験を行い、考察を行う学問です。
もしくは、今まである物理法則から仮説を立て、観察・実験で立証する学問です。
天文学(宇宙物理)で物理をマスターする必要がある以上、この思考プロセスも身につける必要があります。
公式を覚えるだけならばすぐにできますが、思考プロセスを身につけるにはかなりの時間がかかります。
そのため、スタートは早いほうがいいのです。
だからこそ高校理科では、
物理
を選択すべきなのです。
二番目の理科の選択科目は?
二番目の科目ですが、これも宇宙の観測や実験のニュースから考えるといいかと思います。
宇宙に原子が生まれてからしばらくは、水素とヘリウム、そしてわずかなリチウムしかありませんでした。
ところが現在の宇宙を観測すると、水素やヘリウムだけでなく、金などの金属や複雑な形を持つ有機物が存在しています。
これらはなんらかの反応過程を得てできたものです。
宇宙では地球上で観察するのが困難な反応過程も見ることができます。
特にガスの塊である分子雲では、地球上の反応過程とは異なったものもみることができます。
物質の反応変化を観察・実験する科目は化学です。
どういう反応があるのかといったことや、有機物の分子の形はどういうもので、どういった特徴があるのかを知っているのと知らないのとでは、宇宙の理解が全く異なります。
この点から「化学」も選択肢に入ります。
なお、宇宙では地上の実験ではまれにしか起こらない反応も発生します。
これは宇宙空間ではそもそも分子密度が非常に低いためです。
三番目の選択は?
高校で三番目の理科を選択できる学校は少ないかもしれませんが、三番目は何を選んだらいいかというお話です。
正直アストロ部管理人のひなたでもかなり悩みました。
ここはあえて、生物にしました。
ただ、選択が可能であるならば地学でもいいかと思います。
アストロ部で生物にした理由は、宇宙に生物がいるかどうかが本格的に議論されているからという面もあります。
以前は宇宙に生命は地球しか存在しないと考えられていました。
なぜならば、火星より遠い惑星は水が氷でしか存在し得ず、地球より近いところでは水が水蒸気になってしまうからです。
生命には液体の水が不可欠だと考えられていたからです。
しかし、ケプラー宇宙望遠鏡などの活躍により、地球に似ていて、水が液体で存在しうる環境にある惑星を発見してきました。
また、木星や土星の衛星にも、表面は氷で覆われていてもその内側は液体の水が存在していることが判明したのです。
現在、地球外生命の探査を行うべく準備が着実に進んでいます。
既に宇宙空間で生命が生存できるかどうかの実験が宇宙空間で行われているくらいです(たんぽぽ計画)。
そして、生命生存の証拠となる手がかりを見つけるべく観測も始まっています。
このように今や天文学と生物学は結びつきを深めつつあります。
生物の内容そのものは研究で使わないかもしれませんが、高校生物の概要をしっていると何かと役に立つことでしょう。
さらに、大学の入学試験の問題やTOEFL®などの英語試験で生物の話題が出てくることがあります。
もちろん、難しい単語については脚注がついています。
しかし、教養として知っておいたほうが、英語の文章を読んだときに単語が分からなくても、なんとなく全体で何を言いたいのかが理解でき、解きやすくなるからです。
大学試験だけを見ても、英語は必ずあります。
単語は分かってもイメージがわかなくて解けなかったということは耳にする話です。
逆に単語は分からなくても全体がわかったので解けたということもありえます。
そういった面で「生物」を推奨します。
結局、理科の選択はどのように選べばいいの?
宇宙を学びたい君の高校理科の選択は、
- 物理
- 化学
- 生物(地学)
という順番になります。
物理という選択は、遠回りをしているように見えて、宇宙を勉強するのに一番近い道のりなのです。
宇宙を学ぶのに一番近いと思う地学が選択肢の一番最後になっているのは、なんだか釈然としないかもしれません。
でも、大学で宇宙を学ぶのに必要な知識は、地学以外の要素も大きいということがもわかると思います。
宇宙を学べる大学の学部の7分類については、こちら。