ヤルコフスキー効果。太陽の光で小惑星が動くって本当?!

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2004年12月24日のクリスマスイブの日に、アメリカ航空宇宙局 (NASA) が発表したニュースが世界を驚かせました。

 

「2004 MN4が2029年4月13日(金曜日)に地球に衝突する確率を300分の1」

 

この地球に接近する小惑星は「アポフィス」と名付けられました。後に2036年4月13日の接近時までは地球に衝突しないことが、軌道計算より求められました。アポフィスに関しては一安心ですね。

 

 

近年、地球に接近する小惑星やカイパーベルト付近の小惑星がたくさん見つかっています。これにはある彗星が発見されたことが関係しています。

それは1993年に発見された「シューメーカー・レヴィ第9彗星」です。この彗星が発見された後、その軌道を計算すると、木星の回りを周回している軌道を描いていることが分かりました。

このシューメーカー・レヴィ第9彗星は1992年に木星のごく近くを通過したため、彗星の核が20個以上に分裂していました。最小のものは45m、最大のものは1,270mです。

そして、1994年7月に木星に次々と衝突したのです。残念ながら衝突地点は地球とは反対側だったため、直接観測することはできませんでした。

しかし、衝突地点が木星の自転で地球の方を向いたときに、その衝突痕が観測されたのです! 巨大な木星最大の衝突痕は、直径12,000kmと地球とほぼ同じサイズのものでした。

木星は巨大な惑星なので、たった1kmほどの大きさの天体の衝突はたいした影響を与えないものと思われていました。

ですが、衝突から何時間も経ってもはっきりと衝突痕が見えたことから、たった1km未満の天体が地球に衝突したら、とんでもないことになるという危機感から、地球に接近する小惑星の探査が本格的に始まったのでした。

 

 

衝突する可能性のある小惑星は、アポフィスだけではありません。2018年にアメリカ航空宇宙局 (NASA)の打ち上げた宇宙探査機「オシリス・レックス」が小惑星「ベンヌ」に到着します。

実はこの小惑星も2169年から2199年の間に8回地球に接近し、そのどれかで地球に衝突する可能性が0.037%あるとされています(2016年時点)。

 

 

コンピュータが格段に進歩して、複雑な軌道計算ができるようになったにもかかわらず、衝突するかどうかは確率になっているって、不思議じゃないですか?

これはコンピューターの軌道計算で生じる誤差の問題もあるのですが、それ以外の要素が大きいのです。

小惑星に限らず、太陽系の周りを回っている惑星や小惑星等の天体は、「万有引力」の力によって運動しています。したがって、惑星や小惑星の引力の考慮して次々と位置を割り出していけば、何年後にどこにどの天体がいるのかがわかります。

しかし、小惑星や彗星のように小さい天体には、万有引力以外の力によって万有引力だけを考慮した軌道計算とは位置がずれてくるのです。昔の書籍には非重力効果というキーワードと書かれていることもあります。

万有引力以外の力とは、地底から出たガス噴出の力や「ヤルコフスキー効果」と呼ばれる効果による力です。特にkm未満の小惑星でヤルコフスキー効果が現れます。

このヤルコフスキー効果は、太陽の熱によって暖められた天体の表面からの熱放射の量が朝の地点と夕方の地点で異なるため、その差によって力が生じる効果です。

夕方の地点が太陽によって十分暖められているため、熱放射の量が多くなります。それに対し朝の地点は夜の間に冷えているので、熱放射の量は夕方の地点に比べて少なくなります。この差が力となって現れるのです。

熱放射の差によって生じる効果であまり大きな力にはなりません。そのため、天体が大きく重いとヤルコフスキー効果は現れなくなります。

 

 

このヤルコフスキー効果は困ったことに天体ごとに異なることです。

天体によって形が違い、また地表の物質も異なります。同じ太陽の光を浴びても暖まり方が天体によって異なるためです。

どのくらいの影響があるかを調べるために、天体ごとの長期間の観測を継続、もしくは探査機を飛ばしての観測やサンプルリターンでの調査を行います。

観測と軌道計算の差を見ることで、どのくらいの力が生じているのかを調べることで着るようになります。こうして、万有引力以外の力を考慮した軌道計算を行うことができ、軌道計算の精度があがります。

精度の上がった軌道計算を行うことによって、対象の小惑星が地球に衝突するかどうかの危険性をより正確に調べることができ、万一衝突すると判明した場合、地球に小惑星が衝突する前に対策を練ることができるでしょう。

地味な研究のようでいて、衝突による大被害を防ぐための大事な研究なのです。

 

 

小惑星がどのような物質でできているのかを調べるということは、太陽系がどのようにして形成されたかを知るためだけでなく、構成されている組成によって万有引力以外の効果を調べる研究にもつながるのです。

特に組成を調べる研究は地球科学の枠組みで研究している研究者が多くいます。

以前は地球の研究と地球以外の研究は全く別物として考えられてきましたが、近年は地球科学と宇宙の領域は密接に関わり合っています。

宇宙を研究する分野は、天文学や物理学だけではありません。地球物理の枠組みでも宇宙の研究ができるのです。